去年日本海新聞に掲載した文章を転載します。
"「一体何故こんなに必死になってお金を稼いで生きなくてはいけないのか」、「心を消耗し、時に他人を蹴落としてまで、自然を破壊してまで優先される「経済」とは一体何なのか」そういった疑問と悩みを抱えながら生きていた20代のある時に手にとった本です。この本にはラダックというヒマラヤの秘境を研究していた言語学者、ヘレナ・ノーバーグ・ホッジが滞在中に目にした貨幣経済とグローバリゼーションの影響について記されています。ヘレナさんがこの地を訪れた当初、土地には所有という概念も無く、モノには値段も無かった。必要とされるモノを必要に応じてつくりだす暮らしを営んでいたエリアに、貨幣経済が導入されるとどう変化したか。そこで目撃し、体験した記録から資本主義経済やグローバリゼーションについての考えが述べられています。「幸せの為に」と導入されたシステムにより、それまで分け与えることを第一に考えていた人々は競争と独占に駆り立てられ、心を消耗し、土地が荒れていく。幸せとは何か、経済とは本来何を意味しているのかを読む人に考えさせる一冊です。資本主義経済の中で生きる日本人にとっても彼らの暮らしの変貌は体験してきた歴史でもあります。「経済」が意味するものは本来「経世済民(世の中を治め、民衆を苦しみから救済すること。また、そのような政治。)」だったはずです。世界の経済が小休止せざるを得ないコロナ禍の時期、もう一度そのことを改めて考え、新しい経済の在り方を問い直すチャンスと捉えています。
本は時代も場所も越えた体験や思想と出会う爆弾です。身近に本当の悩みを話し合う人が居なければ、本屋や図書館に親友と思える存在を見つけることができるかもしれません。僕はそうして本と出会いました。そして、そんな場所をつくりたいと願い本屋を運営しています。”
この本を読んだ後、「本屋をやろう。そしてまずは農業研修へ行こう」という決心がつきました。自分にとっては人生を決定づけ、その影響を未だに受け続けている本です。原著が発行されたのは30年前。翻訳が出たのは2003年だそうです。僕は12、3年前に読み、それ以来さまざまな友人、知人にこの本をすすめてきました。この本を読んでくれさえすれば、経済や政治の在り方についてただ無意味に争うような議論をしなくて済むはずだと思っていました。実際は読んでくれた人の反応はまちまちで、「まあ、こういう考え方もあるよね。」といった感想に留まることも多く、むしろそんな経験を経て、自分の人をたやすく変えようとする傲慢さに気付くばかりでした。強く勧めたいが、押し付けにならぬよう、そっと爆弾を設置し、いつか出会って炸裂して欲しいと願う。そんなふうに佇むことも大事だと思うようになりました。
それから10年程経った現在、長らく絶版だった本著が文庫として復刊しました。最近では「人新世(人類が地球の地質や生態系に重大な影響を与える発端を起点として提案された、完新世(Holocene, ホロシーン)に続く想定上の地質時代である。wikipediaより)」という言葉が広まり、地球環境の諸問題は「いつか誰かが解決してくれるもの」から、自分の人生と環境の寿命を比較した時に不安を覚えるような状況になっています。経済は、特に日本では10年前と比べても厳しさを増してきています。
あらゆる危機が他人事ではなく自分のものとして目の前に立ち現れている今、もう一度世の人々に読まれて欲しいと願っています。今なら押し付けず、でも強い気持ちを持って人に勧められる気がしています。そして読んだうえで、今共に何ができるかを考え、そして実践していきたいと思っています。この本を読んだ影響が汽水空港ターミナル2(食える公園)です。様々な人と交流しながら、これから新しい文化をつくっていきたい。
なんで通販ページで作文を書いてるんだろう。(モリテツヤ)
"著者 ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ
翻訳 鎌田陽司
近代化の嵐のなか、環境破壊や自然破壊、地域社会の崩壊にどのような未来を描けるかをヒマラヤの辺境ラダックから学ぶ。
本書は、1975年、スウェーデンの言語人類学者ヘレナ・ノーバーグ=ホッジが、小チベットと呼ばれるヒマラヤの秘境、インド北部のラダック地方を訪れ、そこで目にした自然と調和した合理的な生活が近代化の名のもとに変貌していく姿を綴った記録である。
世界40カ国で翻訳されて話題を呼んだ名著の増補改訂、文庫化。
グローバリゼーションのなかで推進される環境破壊や自然破壊、地域共同体の崩壊に、どのような新たな未来が描けるのか模索する。
「文庫のための追記」でラダックの最新の現状、変化について詳細に解説。"山と渓谷社HPより
