発行:以文社
紹介
日本の消費者主権論の展開、あるいは反–マルクス主義思想の実践史かつて、〈消費者〉による社会の変革を夢見た人びとがいた。急進的労働運動のオルタナティブの形成を目的として、日本における婦人運動の限界を打ち破ることを目的として、あるいは利己と利他の二項対立を超克した協同社会の樹立を目的として。
さまざまな思惑が渦巻くなかで、〈消費者〉をめぐる言説空間は急激に拡大していき、戦間期日本におけるひとつの思想潮流を形づくる。だがそれは、戦中期の「総力戦体制」に、すべての人びとの生を投棄することを許容する論理までも提供するものであった。
翻って、私たちは現在〈消費者〉として生きることを当たり前のように思っている。多くの研究者は、私たちがもつアイデンティティが、〈労働者〉としてのそれから〈消費者〉のそれへと移り変わってきたことを指摘してきた。では、この私たちの生の有り様を肯定する論理はいかなる背景のもと形成されてきたのか。そしてそれは、どのような可能性を排除するものであったのか。
戦間期日本において、マルクス主義への反発のなかから「消費者主権」という思想が形成されたことを示し、その影響の根深さを示す。〈消費者〉あるいは「消費社会」の歴史と「いま」を考えるための、必読の書。
著者プロフィール
林 凌(はやし りょう)1991年生まれ。 東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学、博士(社会情報学)。
現在、日本学術振興会特別研究員(PD)。専門は消費社会論、歴史社会学。
論文に「出来事としての都市を考えるために」(『惑星都市理論』所収、以文社、2021年)、「労働問題の源泉としての「新自由主義」?」(『労働と消費の文化社会学』所収、ナカニシヤ出版、2023年)など。