"水谷周 著
発行 国書刊行会
宗教と科学も自信喪失の時代。行き詰まりを打開するものは何か?
そして信仰(祈り)は、そのような時代に新たな息吹を吹き込めるだろうか。
合理的な思考というものが世界を良い方向へ導いてくれる、と多くの人は考えてきたが、今やこの前提に疑問が投げかけられる時代となった。「因果関係の不安定さ」が物理学において論証されたために、科学はそれほど確実なものとは保証されなくなったのである。
他方宗教は、土台に火がついてから久しい。宗教への大きな挑戦は、むろん自然科学の発達である。
「信」と「知」という人間生存の二つの側面が、それぞれ瀬戸際に立たされている。双方は対立の歴史から脱却していない。今世紀に入って、指導的な宇宙科学者がローマ教皇と正面から対峙する場面なども見られた。
天賦の二大才覚である双方とも、それぞれ再構築が不可避となっている。
信仰は、行(祈り)の実践普及と信仰学の振興によって新たな息吹を吹き込むことができる。
科学は「ひらめき」など精神面を取り込むことでその幅を拡張し、人間存在をただ要素還元して骸骨化してしまう科学一神教を超克することができる。
ここにおいて脱物質主義、脱進化論的合理主義の新たな哲学が要請されるのである。弱肉強食ではなく、自然の原理としての「共生」に関する学術的な議論と概念の定着が必要なのである。
著者紹介
水谷周 (ミズタニマコト)
京都大学文学部卒、博士(ユタ大学)。(社)日本宗教信仰復興会議代表理事、現代イスラーム研究センター副理事長、日本ムスリム協会理事、日本アラビア語教育学会理事、国際宗教研究所顧問など。日本における宗教的覚醒とイスラームの深みと広さの啓発に努める。
『イスラーム信仰概論』(明石書店 2016年)、『イスラームの善と悪』(平凡社新書 2012年)、『イスラーム信仰とその基礎概念』(晃洋書房 2015年)、『イスラームの精神生活』(日本サウディアラビア協会 2013年)、『イスラーム信仰とアッラー』(知泉書館 2010年)、(以下は国書刊行会刊行)『イスラーム信仰叢書』全10巻、総編集・著作、2010~12年、『クルアーン やさしい和訳』監訳著、2019年、『黄金期イスラームの徒然草』2019年、『現代イスラームの徒然草』2020年、『祈りは人の半分』2021年、『イスラーム用語の新研究』2021年、『信仰の滴』2022年など多数。
目次
はじめに
一、信と知の相関関係
ア.キリスト教世界と近代科学の発達
イ.仏教の場合
ウ.イスラームの場合
エ.残る疑問点
二、信と知のせめぎあい
ア.対話ではなく相互承認と互恵を
イ.異なる手法──理知と宗教的直観
ウ.宗教の科学的探求
・宗教に迫る脳科学と進化生物学
・信仰が前提の深層心理学と身心変容技法の研究
・人工知能のシンギュラリティ(技術的特異点)問題
三、瀬戸際に立つ信と知
ア.揺らぐ知的体系──物理学以外の挑戦
・文化人類学的視点
・ポストモダニズム(脱近代主義)
・ディコンストラクショニズム(脱構築主義)
イ.揺らぐ宗教信仰──科学以外の挑戦
・「社会の阿片」となった物質主義
・意気消沈の宗教界
四、信と知を統合する行
ア.比叡山の千日回峰行
イ.中世のエルサレム巡礼
ウ.イスラームのマッカ巡礼
五、信と知の再構築
ア.『科学と宗教の統合』=相互承認
イ.有事と平時の行=共鳴する信と知
・有事の行
・平時の行
ウ.「信仰学」の樹立=互恵関係の信と知
・ケン・ウィルバー方式に倣って
・著者水谷のイスラーム信仰学
・ウィルフレッド・スミスの信仰学提唱
エ.次世代への展望=共生する信と知
・ホモサピエンスの生き様として
・自信と躊躇の狭間
おわりに"版元HPより